SS<救難信号>


メーデーメーデー!応答してくれ!』

ここはとある海岸警備隊の基地。
僕は新米なのだが、あまりやる気のある方とは言えず。
昨日も仕事をサボって、あまり人のこない小さな山の中腹で休息していたのだ。
今日は怒られる覚悟でここへきたのだが基地には誰もおらず、無線電話にある“救難信号”の記録だけが残ってた。

それにしても誰もいないとは
一体何があったのだろうか。
まさか全員で救助にいったわけではあるまい。
ここら周辺の町は人口が少なく、この基地も小規模なもので基本的に十数人しかいないのだが
もし何か起こって出動するとなったとしても最低二人は残る事になっている。
まさか襲われた?いや、争った形跡はないな。

結局謎が解けず、無線電話の記録を聞いてみることにした。

『こちらハーバー号。
波で少し進路をそれてしまった。
一応自動操縦で基地に戻るように設定してあるんだが、万一に備えて灯台を灯して欲しい。』

なんだ、こんな事か。大袈裟な。
そう思い息をついていると次のメッセージが流れてきた。

『ありがとう、なんとか戻れそうだ。
そういえばさっき漁船をみたんだがこの時間帯に出てる漁船なんてあったか?
念のため中を確認してみるよ。』

おかしな話だ。
ハーバー号が出動している時間帯は深夜帯。
この辺は夜になると波が強くなるため漁師たちは船を出すのを禁止されているのだ。
まさか密漁ではなかろうか。

『大変だ、漁船の中には誰もいなかった。
床にライフルと弾が散らばっている所をみると、まさか海賊たちと争ったんじゃないだろうか。
今頃監禁されているかもしれない。
今日は流石に戻るが明日詳しく調べてみよう。』

ほう、事件性が増してきた。
この辺の海は海賊がよく出る為に漁師たちも用心しているのだが、その漁師たちを監禁したとなると余程手慣れた海賊に違いない。
漁師たちはもしかしたらもう海の底にいるのかも。

『また漁船をみつけた。
さっき部下たちに様子をみにいかせたんだが、まだ帰ってこない。
今からライフルを持って確認しに行くが、位置情報を送っておくので15分以内にこちらからの連絡が無かったら出動してくれ。』

まさかここで海賊と...
それなら用心して全員出動させたという事もあり得る。
帰ってきていないという事はまさか...


『た、大変だ。化け物だ。
すぐ逃げ出した為、後ろ姿しか見ていないのだが、人のかたちをした鮫のような奴が乗船していた。
もう部下たちは手遅れだろう、とりあえず漁船からは離れるが念のために町のみんなは避難させておいてくれ。
自動操縦の海路を変更しておいたが漁船を避けていくとなると到着は朝くらいになる。
町のみんなは叩き起こしてでも避難させておいてくれよ。』

人の形をした鮫の化け物?
新種のUMAかなにかか?
とりあえず得体の知れないものなのに変わりはない。

『もうダメだ。あの化け物、見た目の通り泳げるらしい。
それに凄く速いときた。
もう乗船してるんだ、ほら、聞こえるだろ。
水の混じった足音が。
もうじき俺の隠れてる場所もバレる。
お前らも早く逃げ...』

ここで通信は途絶えていた。
そこでふと、思いついたかのように考えた。
化け物を乗せたハーバー号は自動操縦でこちらに向かっている。
それに到着が朝と言っていた。

大変だ、今がその“朝”じゃないか。
僕も早く逃げなきゃ
基地を出る前に、ふと海の方をみると船はもう見える位置まで来ていた。

これでは今からここを出ても間に合わないかもしれない。
僕は一か八かで基地内の機械をいじり、砲塔を動かした。
一度だけ試し撃ちさせて貰ったことがある、大丈夫だ。大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせてモニターを睨みながら、手汗で湿っているハンドルを強く握り、ハーバー号に狙いを定めた。
そして震えた右手で発射のボタンを押す。

銃口から発射されたミサイルは、見事にハーバー号に命中して、船を沈めた。
思わずガッツポーズをする。

そうだ、この事を町の皆と避難したらしい上官たちに伝えなくては。
僕は、上官の机にある引き出しの中の書類に書いてある携帯番号をみて、上官に電話をかけた。
なかなか繋がらないな、電池がないのだろうか。

呼び出し音の続く中、廊下の方からピチャピチャという水の混じった足音が聞こえてくる。
音の方向を振り返ると、全長三メートルほど有りそうな鮫にも似た化け物が少し屈んだ体制で立っていた。


あ、そうか。泳げるんだったな。  

僕は呆然とその場に立ち尽くし
やっと上官へと繋がった携帯電話に呼び掛ける。

メーデーメーデー...